榛名冨士山神社で出会った風景

榛名湖の周辺は、季節ごとに景色がまるで違う顔を見せてくれます。
その日は、少し冷え込み始めた初秋。
榛名富士へ向かうロープウェイ――
「前から高かったけれど、さらに高くなったなぁ」
家族旅行では躊躇してしまうほどになってしまったなと、少し切ない気持ちが混ざります。
榛名湖といえば──ワカサギ。
昼食時をとうに過ぎて、オーダーストップ目前。
それでもギリギリ間に合って、名物のワカサギの唐揚げと温かいうどんにありつけました。
小さな幸せにほっと息をついて、そこから神社へ向かいます。
榛名冨士三山神社と榛名湖

榛名湖の底には、龍神様がいるとも伝えられています。
湖に広がる静かな水面は、風が止まると吸い込まれそうなほど澄んでいて、
その神話が現実味を帯びて感じられる瞬間があります。
そして榛名山そのものも、龍神に守られた霊山として語られてきました。
驚いたのは、参拝客の年齢層。
紅葉が始まり、観光シーズンとはいえ、
この日の頂上の人々は──平均25歳くらい?
若い世代にここまで人気がある山、神社は、実はあまり多くありません。
もしかしたら、「写真映え」以上の、無意識の安心感や引き寄せが働く場所なのかもしれません。
夕暮れと異世界へと変わる時間

山の上は、街とは比べものにならないほど日暮れが早い。
冷たい風が木々を揺らし、湖を渡り、身体の芯まで秋の気配が染み込んできます。
榛名冨士三山神社の社殿は、いつ訪れても異世界のよう。
人工物なのに自然の一部。
境界線が曖昧で、
「ここから先は神域です」と、声にはせずとも伝えてきます。
この日は特に、
夕焼け色──からくれないが社殿にかすかに映り込み、空が闇へ沈んでいく前のわずかな時間、千木が光を受けて静かに輝いていました。
その光景は、「美しい」を越え、心をまるごと持っていかれるような神秘。
まるで、龍神が眠りにつく前の瞬きのようでした。
山頂からの景色

山頂から見下ろす榛名湖畔は、夕日と夜の境目が溶け合うグラデーション。
ひと筋の光が湖に落ち、その先でふっと途切れ闇に飲まれていきます。
反対側へ目を向けると、今度は関東平野の広さ。
どれだけ訪れても、いつも同じ感想が口をつきます。
「本当に、関東平野って広い。」
山と湖と空と平野。
そのどれもが静かで、雄大で、そして温度がある。
ここに来るたび、時間や季節や悩みごとが、山の空気に溶けていくような感覚になります。

🧣これから行く方へ
帰り道の風は、驚くほど冷たい。
冗談抜きで、ひとつ多めの防寒をおすすめします。
そして、もし時間があるならぜひ──
夕暮れの時間を選んでみてください。
榛名冨士三山神社は、
昼と夕暮れではまるで違う世界を見せてくれます。
エピローグ

風は冷たく、空はゆっくりと夜へ向かっていく。
湖面には、さっきまでの夕焼け色が薄く残り、
静かな波だけが、その名残をゆらしていました。
榛名冨士三山神社の社殿はもう影の一部になっていて、
周りの木々や石段までもが夜に溶けはじめています。
観光地としては明るい場所なのに、ここだけはまるで別の世界。
足元の音、呼吸、衣擦れ、
そのひとつひとつが、静寂に吸い込まれていきました。
そして最後に、心の中に浮かんだ言葉。
「神様は語らない。
でも、景色が答えを教えてくれる。」
その答えは、人によって違うのかもしれません。
願い、迷い、希望、後悔、旅の理由。
何を持って訪れても、
榛名冨士は受け止めてくれる。
そして余韻の中で、それぞれが自分の答えに気づく。
そういう場所なのだと思います。





